The Studio
私たち、クレアーレ熱海ゆがわら工房は、「人が集まる場所を、人の心が豊かになる場所にしたい」を理念に、半世紀にわたり、さまざまなジャンルの作家とのコラボレーションで、これまでに560点以上のパブリックアート作品を生み出し、津々浦々の公共空間を彩ってきました。
自社工房で企画から製作、設置までを一貫して行なうことにより、世界でも類を見ないアプローチのアートを確立しました。建築と融合し、空間の魅力を高め、行き交う人の心をうるおす豊かなコミュニケーションを創出しています。
工房では今日も職人たちが、原画と向き合い、表現の可能性を模索しながら、誰も見たことのない壁画作品を創造すべく挑戦を続けています。
工房の運営元である株式会社NKB(会長・滝久雄)が推進するパブリックアート事業。第一号の大型ステンドグラス作品『天地創造』(原画・監修:福沢一郎)は1972年に東京駅に設置されました。父・冨士太郎の鉄道広告事業を手伝っていた若き滝が「1972年の東京駅開業100周年の記念に」と提案し、国鉄(当時)の賛同を得て実現しました。駅に大型アートをつけることは、当時としては大きな挑戦でした。
1975年、父の不慮の事故で事業を継ぐと、滝は広告事業と共にパブリックアート事業を推進します。当初は他工房を借りての製作でしたが、自社工房として1980年に滋賀県信楽町(現・甲賀市)に陶製作の「信楽工房」を、翌81年にステンドグラス製作の「クレアーレ熱海ゆがわら工房」を設立。その後、陶製作も足の便の良いクレアーレ工房に集約しました。ただ作品によっては現在も信楽工房を活用しています。
ベルギー人のルイ・フランセンさんは1960年代にカトリックの宣教師で来日しました。
ステンドグラス作家でもあった彼は陶芸に魅せられ、日本各地の工房で技術を習得しました。教会の神父を務めながら東京藝術大学で講師をしていた時、「一緒にアートをやろう」と誘ったのが株式会社NKB現会長の滝久雄でした。
一大決心で教会を脱会して、滝が創設した工房の所長に就任。2010年81歳で亡くなるまで約30年、製作に携わる傍らスタッフの技量向上に情熱を注ぎました。
「自然に出てくる味を大切に」「造形は神秘性がある方が面白い」「火の神様を信じなさい」。東洋哲学の精神が息づくルイさん語録は、いまもスタッフたちの心構えを作っています。
大型パブリックアートからスタートした工房は、素材にステンドグラスと陶を選びました。
ステンドグラスはヨーロッパで古くから教会で使われているように耐久性に優れ、退化しません。千年を超えて残っている教会のステンドグラスも数多くあります。
陶も釉薬を施して高温焼成することで表面がガラス化して、ステンドグラスと同様の耐久性を持ちます。
両素材を使った大型パブリックアート製作を50年以上続けてきましたが、震災などでヒビが入ったり、破損したり、倒壊した作品は一点もありません。設置・取付けまで完璧なプロの仕事を心掛けています。
原画を基に作られたパブリックアートは、原画の忠実な再現や模倣ではありません。工房の職人は原画を読み込み、解釈を施して新しい表現へと転換させます。この過程を“翻訳”と呼んでいます。
工房の陶作品を「陶板レリーフ(浮き彫り)」と呼ぶのも、二次元の原画が30センチ以上も盛り上がった凸凹のある三次元的な造形になるからです。
ステンドグラスはヨーロッパ発祥ですが、焼き付けや削りなどの技術を駆使して原画に新たな息を吹き込みます。工房を見学した外国人は「日本的表現のステンドグラス作品となっているのが素晴らしい」と驚きます。
原画の先生方と工房の協働は1プラス1が3にも4にもなる付加価値を生み出しているのです。
工房は大型パブリックアートの原画を長年、著名な芸術家に依頼してきました。 片岡球子、平山郁夫、堀文子、佐野ぬい、野見山暁治、五十嵐威暢など故人の原画による作品はいまや日本の文化的財産です。
近年は、漫画家にも積極的に原画制作を依頼しています。漫画は高い発信力があり、手塚治虫、矢口髙雄といった巨匠から、大友克洋、高橋陽一、こうの史代など現代を代表する作家まで、各氏の原画による作品を見に、国内外から多くの人々が足を運びます。欧米でも近年、「マンガは芸術」との認識が広がっています。
さらに、工房ではパブリックアートの一部をグッズとして展開。大型アートからインテリア、グッズまで、大小、幅広いラインナップで、アートをより身近に届ける取り組みも進めています。
Photo K.Kurigami
工房創設者
滝久雄TAKI Hisao
東京都出身。1963年東京工業大学(現・東京科学大学)卒。1975年、父の不慮の事故で事業を引き継ぎ、交通広告会社の経営と共に、パブリックアートの普及、内外の美大生を対象とした国際瀧冨士美術賞、日本の学生と留学生の交流促進、ペア碁の創案など、幅広い文化芸術・教育の振興に注力。経営と文化・教育事業を両立させたビジネスモデルを確立した。1996年飲食店情報サイト「ぐるなび」を創業し、2020年に文化芸術や食文化への貢献で文化功労者に選ばれた。
現在は(株)NKB創業者・会長、ぐるなび会長、公益財団法人 日本交通文化協会理事長。「日本は経済優先主義を転換し、文化芸術を国造りの基本に据えるべき」が信念。主な著書に『貢献する気持ち -ホモ・コントリビューエンス-』、『東京の多様性』、『東京”偏愛”論』など。